ビニールハウスの高温対策は「必須の経営対策」
ここ数年は、「暑さの質」が変わり、愛知県豊橋市のデータから8月最高気温+2.8℃、7月・8月の平均気温も上昇し、日中の高温が長時間続いております。
高温の長時間化は着果不良・奇形果・品質低下に直結し、作業者の熱中症リスクも高めます。
本記事では、主要対策(自然換気・遮光/IRフィルム・循環扇+ミスト・地下水エアコン)の効果・コスト・リスクを比較表で整理し、実運用で日中ピーク温度を数℃下げるための組み合わせ方を解説します。
継続的に室温ピークを抑える手段として、地下水エアコンの活用ポイントと導入目安(1反あたり)まで具体的に示します。
なぜ今、ビニールハウスの高温対策が必須なのか


ビニールハウスは、ここ数年で暑さの質が変わりました。
施設園芸が盛んな愛知県豊橋市の気温を比較すると、2025年は2015年と比べて8月の最高気温が+2.8℃、7月の平均気温が+2.6℃、8月の平均気温が+2.0℃上昇しております。
7月の最高気温こそ−0.4℃とわずかに低下していますが、日中の高温が長く続く傾向が強まり、作物も作業者も高温にさらされる時間が確実に増えています。
この「高温の長時間化」は、着果不良・裂果・奇形果・品質低下(糖度・色づき不良)を招き、計画収量と販売単価の双方を圧迫します。
加えて、作業者の熱中症リスクも確実に上がり(指標値としてWBGTの管理が推奨)、収穫・選別・搬出といった繁忙期の現場運営に直結する課題です。
つまり、ビニールハウスの高温対策は「コストを下げるための省エネ」ではなく、収量・品質・安全を守るための必須の経営対策です。
この章では、豊橋市の気温推移を起点に主要対策の選択肢と組み合わせ方を整理し、継続的に日中ピーク温度を抑えられる手段として地下水エアコンの活用可能性まで解説します。
愛知県豊橋市の2015年と2025年の気温比較


(出典:愛知県豊橋市気温|国土交通省 気象庁)
こちらのグラフは、2015年と2025年の7月8月における「最高気温」と「平均気温」を比較した棒グラフです。
8月の最高気温は+2.8℃(33.8→36.6℃)上昇、平均気温は7月+2.6℃(25.3→27.9℃)、8月+2.0℃(27.0→29.0℃)と、日中ピークだけでなく一日を通じた暑さの持続が強まっています。
7月の最高気温はわずかに低下(−0.4℃)していますが、平均気温の上昇により作物・作業者への恒常的な熱負荷は大きくなっています。
高温が作物と人に与える影響
作物への影響(ビニールハウス)
夏季の高温は着果不良、果実の日焼け・裂果、奇形果、品質低下(糖度・色づき不良)などを招き、生産量と販売単価の双方を押し下げます。
特にビニールハウス内は放射と蓄熱で外気以上に高温となりやすく、換気不足や日射遮蔽の遅れが障害発生を助長します。
農林水産省の温暖化影響レポートでも、各地で高温障害の増加と適応策の必要性が示されています。
作業者への影響(熱中症)
高温多湿下の農作業は熱中症リスクが高く、めまい・頭痛・筋けいれんから重症化(意識障害)まで発生します。
指標としてWBGT(暑さ指数)が用いられ、暑熱環境ではこまめな水分・電解質補給、休憩、通気性の良い衣服・送風、無理な連続作業の回避などの対策が推奨されています。
(出典:農作業中の熱中症対策について|農林水産省)
ビニールハウスの高温対策比較表
| 施策 | 想定構成 (1反目安) | 期待温度低下 (夏・湿度60〜80%) | 初期費用 | ランニングコスト | 効果の安定性 | 主なリスク/注意 | 併用推奨例 |
| 自然換気 | 天窓・側窓 の設置 | 外気温以下には ならない | ◎ | ◎ | ×~△ | 高温障害の発生 | 循環扇・ 換気扇 |
| 遮光・ IRフィルム | 屋根張替・ 貼付 | 1〜3℃ | 〇 | ◎ | △~〇 | 透過率の選定が重要 | 換気・ 循環扇・ 局所冷却 |
| 循環扇・ ミスト | 循環扇2〜4基+ ミストノズル | 1~3℃ | 〇 | 〇 | 〇 | 過湿により、 病害、 結露の恐れあり | 循環扇・ ミスト |
| 地下水エアコン | 4台(1台/200~250㎡) | ~6℃ | △ | 〇 | ◎ | 送風位置の選定 | 循環扇 |
対象:ビニールハウス1反(約1,000㎡)を想定
指標の意味:◎=良い/低い、○=中程度、△=高い/注意、×=不利
期待温度低下は、夏・湿度60〜80%を前提にした目安(気象・作物・ビニールハウス仕様で変動)
自然換気(天窓・側窓)
概要
ビニールハウス内外の温度差・風力を利用して、天窓と側窓から熱気を排出します。
開口率(屋根・側面の可開面積の比率)が大きいほど排熱効率は高くなります。
メリット
・ランニングコストが低い
・他の対策(遮光、循環扇、ミスト)と親和性が高い
デメリット
・無風・微風時や外気温が極端に高い日は効果が得られない
・窓の開口不足や開閉装置の不具合で十分な効果が出にくい
ポイント
・天窓・側窓の開口率(目安:10〜20%)を確保し、風下側を広く開けると排気が安定
・施設・作物に応じて風向に合わせた開閉運用を標準化
遮光・IR反射フィルム
概要
直射日光を遮る「遮光カーテン・遮光剤」と、太陽光の赤外線をカットする「IR反射フィルム」は役割が異なります。
メリット
・遮光材:導入が容易、コスト幅が広い
・IRフィルム:作物の光合成に必要な可視光を確保しながら約1〜数℃規模の温度低減が期待できる
デメリット
・遮光材:過遮光は生育・収量低下のリスクがある
・IRフィルム:初期費用と施工性、耐候性の検討が必要
ポイント
・遮光材:作物の必要光量に合わせて遮光率(例:30〜50%など)を選定する
・IRフィルム:「遮光ではなく輻射熱対策」として位置づけ、換気・循環扇と併用することも検討
循環扇+ミスト
概要
循環扇で気流をつくり、ビニールハウス内の温度ムラを解消することができます。
合わせてミストを用いると、気化熱で空気の顕熱を奪い、体感温度を下げられます。
しかし、過湿は病害につながるため、ミストの噴霧量・粒径・間欠制御が鍵となります。
メリット
・比較的低コストで既存ビニールハウスに追加しやすい
・作業者のストレス低減、作物近傍の気流改善可能
デメリット
・高湿条件では効果が伸びにくい
・細霧の粒径・位置が不適切だと結露や病害を誘発
ポイント
・循環扇は連続で弱〜中風量、気流の短絡を避ける配置は必要
・ミストは間欠運転+粒径最適化(微細化)で過湿を回避、換気と同時運用を推奨
地下水エアコン
概要
地下水(多くの地域で通年およそ15〜17℃)を使用し、特殊パッドに地下水を滴下して外気を直接冷却し送風する方式です。
エアコンと異なり圧縮機を使わないため、ファン・ポンプ等の電力のみで運転が可能です。
条件が整えば既存換気・遮光・循環と併用してビニールハウス内の温度低減が可能です。
メリット
- 圧縮機不使用でランニングコストが小さい
- 自然換気や遮光では限界が出る猛暑日でもビニールハウス内の温度を保つことができる
- 地下水が確保できれば設備構成がシンプル、更新も段階導入しやすい
デメリット
- 他施策と比べ導入コストが割高
- 冬季の暖房手段としては地下水単体では不足。温水源(ボイラー排水・排熱等)との熱交換併用で補う設計が前提
ポイント
- 農業分野での導入実績あり
- 送風方向の向きが変更可能
- 真夏でも一定温度のキープ可能
高温対策をしないと何が起きるか


ビニールハウスの高温は、作物の生育・品質・収量だけでなく、作業者の安全や出荷計画にも直結する経営リスクです。
トマト・イチゴはいずれも高温で受粉・着果や果形が崩れやすく、規格外増加や収穫量減、作期の乱れにつながります。
さらにビニールハウス作業の熱中症リスクは制度面でも対策強化が求められています。
トマト:高温が招く着果不良・品質低下
問題:ビニールハウス内が暑い(目安30〜35℃)時間帯が続くと、実が付きにくい・形が乱れる・色づきが遅れる。
効果:日中ピーク温度を数℃下げて温度ムラを減らすと、落花・不受精の発生が低下し、着果の揃いと秀品率が向上。
行動:開花・受粉期はとくに、遮光の最適化+換気強化+気化冷却(ミスト/蒸発冷却)を同時に運用。温湿度計でピーク帯を見える化し、14~16時の天井付近温度を優先的に抑える。
花粉機能の低下と落花
現象:日中高温域(概ね30〜35℃)では花粉発芽率・花粉管伸長・受精能が低下し、不受精果・落花が増加。
結果:空洞果や奇形果の発生、着果率低下と着果時期のばらつきにより秀品率が低下。
対策:日中ピークΔT(目標室温−外気温)を縮小。蒸発冷却で吹出し温度を下げ、花房付近の気流(0.2–0.4 m/s)を確保して花粉環境を安定化。
色回り・肥大の遅延
現象:高温は、色素の合成を阻害し、着色遅延・着色不良を誘発。果実の細胞肥大も阻害され、肥大テンポの乱れが発生。
影響:収穫予測の精度低下により出荷計画の乱れ。
対策:循環扇配置で温度ムラを解消し、着色帯の温湿度を均一化。
管理のポイント
重要時期:開花・受粉期はとくに日中ピーク温度の抑制が最優先。
遮光:直散分離型資材や可動カーテンで放射熱負荷を低減(過遮光は光合成低下に注意)。
換気強化:換気回数(回/h)をピーク時に確保、負圧換気+天窓で排気短絡を回避。
気化冷却:ミスト/パッドで顕熱→潜熱へ変換し吹出し温度を低下。給水量・水質と除湿排気をセット設計。
評価:花房高さの温度計測(1–5分間隔)と着果率・奇形率を同時記録
(出典:トマトの周年安定生産を目的とした 局所温度制御システムの開発に関する研究|農研機構)
イチゴ:高温が招く着果不良・品質低下
花粉機能の低下と奇形果の増加
問題:日中高温(例:30/25℃[昼/夜])が続くと、花粉の働きが弱まり、受精不良・落花・奇形果が増える。
効果:ピーク温度を数℃下げて温度ムラを減らすと、着果の揃い・秀品率が向上し、収穫のブレも縮小。
行動:開花前〜開花期はとくに、遮光+換気+気化冷却を同時運用。
着色・肥大の遅延
現象:花粉管伸長の遅延・不達で受精が遅れ、肥大開始が後ろ倒しとなる。
影響:着色ムラ・着色不良、収穫時期のバラつきが拡大し、計画精度が低下。
管理のポイント
温度管理:日中ピークの抑制と温度ムラ解消が最重要。遮光資材(過遮光に注意)、負圧換気+天窓の併用、ミスト等の気化冷却の実施。
設定温域:最適生育温の概ね10〜26℃域を目安に、ΔT(外気−目標室温)の過大化を回避。
(出典:イチゴの生理生態特性の解明による周年生産技術の開発および周年栽培品種の育成と普及に関する研究|栃木県農業試験場)
地下水エアコンでビニールハウスの高温を抑える理由


夏のビニールハウスは、日射・蓄熱で日中ピーク温度が上がりやすく、花粉機能の低下や着果不良、労働安全(熱中症)まで影響します。
地下水エアコンは、「圧縮機を使わず、安定した低温の地下水を熱源に直接空気を冷やす」方式です。
高出力の圧縮機を回さないため電力負担を抑えつつ、ビニールハウスの最高温度を下げ、温度ムラの緩和に寄与します。
地下水エアコンの仕組
地下水(多くの地域で年中およそ15~17℃)を、特殊パッドに滴下して通風させることで空気を直接冷やします。
圧縮機の代わりにファンと汲み上げポンプが主動力となるため、一般的なエアコンに比べ消費電力を大幅に抑えることができます。


農業用途での主なメリット
- ピーク温度の抑制:日中の最高温度を下げ、花粉活性の低下や落花リスクの緩和に寄与。温度ムラの平準化にも有効。
- 省エネ運用:圧縮機不使用(ファン+ポンプ中心)で電気代を低減。
- 再生可能エネルギー活用:地下水の安定温度を活かす省エネ型空調。ヒートポンプとは異なるため、電力ピーク抑制にもつながる設計。
よくある質問
ここでは、農業分野で導入が多い「地下水エアコン シングルパネル AG-DCD-P」をもとによくある質問に回答していきます。
- 地下水の水温・水量はどの程度あれば導入できますか?
冷熱源となる地下水温と気温・湿度に依存します。
吹出温度=地下水温+3~7℃程度を目安にお考え下さい。
必要水量は、毎分5L/min使用します。
- 既設設備(換気・遮光・循環扇・ミスト・他設備)との併用は可能?
既設設備では能力不足といった場合に地下水エアコンを導入し、既設設備と併用いただいております。
- 電力削減の目安は?
既設ヒートポンプに対し、消費電力コスト80%削減実績がございます。
- 導入規模の目安(ビニールハウス一反あたり台数)は?
ビニールハウス一反あたり、4台設置を推奨としております。
導入環境により設置台数が異なりますので、詳しくはお問い合わせください。
- 地下水水質対策(スケール・鉄マンガン)は?
地下水をかけ流しで使用するため、スケールに関しては触媒フィルターで除去することができます。
鉄マンガンに関しては、空気に触れると析出するため、別途前処理が必要となります。
- 冬季の運用は?
温水を使用すれば暖房として運用することが可能です。
- 補助金・申請サポートは?
補助金採択内容が毎年異なるため、お問い合わせにてご回答させていただきます。
地下水エアコン:シングルパネル仕様 AG-DCD-P
| 機種名 | AG-DCD-P |
| 定格電力 | 単相100V 50/60Hz 550/830W |
| 最大風量(m³/min) | 250 |
| 本体寸法(mm) | W1120×D700×H1650 |
| 使用水量(L/min) | 5 |
| フレーム材質 | PP |
| 風量調整 | 3段式 |
| 風量調整 | 縦横ルーバー |
| 目安空調範囲(農業分野) | 200~250m²/台 |






