工場の廃熱を「暖房」に変える方法|仕組み・適正条件の考え方
冬の工場は、暖房を強めても作業場が温まりにくく、ランニングコストも増加しているケースが多くみられます。
その一方で、コンプレッサーやボイラ、乾燥機からは捨てている熱(廃熱)が出続けていることはお気づきでしょうか。
本記事は、廃熱を作業エリアの「暖房」へ回収する方法を仕組み・適用条件をもとに解説します。
地下水エアコンとの連携による電力削減&快適性向上の事例も紹介しますので、ぜひ最後までお読みください。
廃熱と排熱の違いについて


言葉で「はいねつ」と話しても、漢字に変換すると「廃熱」と「排熱」の2種類が存在します。
そこで「はいねつ」についての意味を確認しましょう。
廃熱は、現状未利用の熱資源や再利用される熱
排熱は、外部放出される熱や利用されない熱
本記事では未利用熱を暖房へ回収する視点で「廃熱」と用語統一しております。
工場の暖房が温まりにくい理由

工場は天井が高く、広い床面積に機械や搬送路が点在し、さらに製品品質を守るための温湿度制約もあります。
その結果、同じ暖房出力でも体感温度が上がりにくい状況になります。
この点がオフィスとの決定的な違いです。
ここでは、温まりにくさを生む代表要因と改善の考え方を整理していきます。
- 天井が高い
- 製品に影響がでるため
- 床の材質
天井が高い
天井が高い空間は、上昇気流によって暖気が上部に滞留(成層化)しやすく、作業者がいる高さ(0.5~1.5m)に暖気がなかなか降りてきません。
そのため暖房をいくら使用しても体感温度が上がらない事態を招きます。
対策として、循環ファンで天井空気を撹拌して温度ムラを解消する、吹き出し位置と風量を見直す。
もしくは放射(輻射)暖房やゾーン暖房で「人のいる高さ」に直接熱を届ける設計に切り替えることです。
製品に影響がでるため
食品・医薬・塗工・化学工場などは、温度/湿度/気流が製品品質に直結します。
乾燥工程や発酵、溶剤使用ライン、クリーン管理エリアでは、むやみに温度を上げたり気流を乱したりすることができません。
このようなエリアでは、作業者付近のみの局所暖房、放射パネルなど、品質条件を崩さない「局所的な暖房」に切り替えると、快適性と品質の両立が可能になります。
コンクリート床の使用
コンクリート床は、熱容量が大きく熱を奪いやすい(熱を蓄える能力が高い)ため、足元の冷えやすいく、体感温度を大きく下げてしまいます。
さらに床面からの放射冷却と下向きの接触伝熱で、暖房が効率よく人に届きません。
対策として、断熱マット・静電対策兼用マットの敷設、低温放射パネルや温風の下吹き、足元ゾーンへの温水コイル追加など、床面への暖房設計を見直すと改善効果が出やすくなります。
工場の廃熱種類について


捨てるにはもったいない廃熱が工場内には必ずあります。
選定のポイントは、温度(何℃か)・量(連続か断続か)・水質(油/水分/固形分)・距離(対象距離や配管設置可能か)の4つがあげられます。
ここでは暖房に使用しやすい代表的な廃熱源と活用時の注意点をまとめております。
- コンプレッサー排気
- ボイラブロー水
- 工場の排温水
- 乾燥機の温風を利用
コンプレッサー排気
コンプレッサーは、空気を圧縮する際に熱が生じるため、圧縮時の排気温度は50~80℃程度の温風を常時放出します。
この温風をダクト回収して作業エリアへ送気、もしくは空気同士の熱交換で温風だけを取り出すと、冬季の暖房として有効活用できます。
注意点としては、微粉じんの混入と圧力損失があげられます。
プレフィルタでの対策、夏季はダクトをバイパスにして屋外放出、コンプレッサー側の吸気と排気の取り合いに配慮して設備負荷を増やさないことが重要です。
ボイラブロー水
蒸気ボイラを使用すると連続・間欠ブローで排出される高温のブロー水(濃縮水)は、プレート熱交換器で回収し、温水暖房やボイラの給水予熱として使用できます。
ただしブロー水はアルカリ性で薬品を含むため、直接利用は現実的ではありません。
熱交換器で熱だけを取り出す、熱交換器の定期洗浄、流量が断続的な場合はバッファタンクを設置してから暖房として利用するのが安全です。
工場の排温水
洗浄水や殺菌水など、40~70℃の温排水が継続発生しているラインは暖房向きの優良熱源です。
活用法として、プレート熱交換器で空調温水として使用、低温の場合は、産業用ヒートポンプを使用し、循環水と廃温水を熱交換して暖房に利用することが可能です。
乾燥機の温風を利用
塗装乾燥炉・食品乾燥・クリーニング等の乾燥機排気は60~80℃(機種によっては100℃前後)と高温で、工場の外気予熱や温水づくりに適した熱源です。
コンプレッサーの排気と同様に空気同士を熱交換し、暖房利用する方法や空気と水を熱交換して温水を作り温水ファンコイルへ送る、2系統が工場で扱いやすく効果的です。
夏季は、乾燥機排気をバイパスとして屋外排気とするか、給水予熱として利用し、冬季のみ暖房として活用することを推奨します。
廃熱源の暖房適正早見表


◎=最適 熱交換器を使用して暖房の主力になりやすい
〇=適 条件を整えれば十分使える
△=要検討 温度・流量・連続性の不足を補う設計が前提
| 廃熱源 | 温度帯の目安 | 流量/連続性 | 暖房適正 | 留意点 |
| コンプレッサー排気 | 50~80℃ | 〇 | ◎ | 粉塵混入対策 |
| ボイラブロー水 | 80~150℃ | △ | 〇 | 水質管理やバッファタンク有無 |
| 工場廃温水 | 40~70℃ | △~〇 | △~〇 | 都度条件確認が必要 |
| 乾燥機排気 | 60~80℃ | 〇 | 〇 | 臭気、塵対策 |
コンプレッサー排気(50~80℃) ― ◎
圧縮熱で安定的に温かい排気が得られ、連続運転時間も長いため、外気予熱や温水作成に非常に向いています。
ダクトで空気同士の熱交換器を行い給気昇温、あるいは空気と水の熱交換器で温水を作りファンコイルやラジエーターに送ればベース暖房になります。
留意点:吸込み側の粉塵混入で熱交換器が汚れやすいので、前置フィルタ+定期洗浄を行いましょう。
ボイラブロー水(80~150℃) ― 〇
温度が高く廃熱源として有望です。
ブロー回収タンク経由で水同士の熱交換により、給水や暖房系統を加温できます。
留意点:水質管理が必須となります。また、ブロー水回収設備(タンク・配管)の有無で実現性が変わるため、既設の回収ルートと設置スペースを事前確認する必要があります。
工場廃温水(40~70℃) ― △~○
洗浄水・殺菌水・温排水など幅広く存在し、継続的に流量が確保できるラインなら暖房へ転用可能です。
留意点:廃温水の連続性や温度のバラつきを事前に確認する必要があります。
また、衛生面・排水処理との整合性や水質分析と熱交換器の耐汚損対策も検討が必要です。
乾燥機排気(60~80℃) ― ○
塗装・食品・クリーニング等の乾燥排気は高温・高顕熱で、外気の予熱や温水化に適します。
冬期のみ排気を回収し、夏期はバイパスで放出する二経路運転が実務的です。
留意点:臭気・塵埃を考慮した設計が必要となります。
工場廃熱を利用した暖房事例


弊社アクアイースターでは、低温な地下水を特殊パッドに滴下し、空気を直接冷やすことができる、地下水エアコンという空調機器を製造しております。


再生エネルギー活用 地下水エアコンについて|アクアイースター
夏場は、地下水を使用し冷房として利用しますが、冬場は、温水もしくは工場からの廃熱と熱交換した温水を利用し暖房として使用することができます。
エアコンと異なり、コンプレッサーは使用しないため、夏場の電気代を最大90%削減した実績もございます。
以下は、アクアイースターで工場廃熱を利用した暖房事例をご紹介します。
①コンプレッサー廃熱利用
②ボイラ燃料排気の利用
地下水エアコン:ラジエーター複合仕様 AG-DCD-PR
| 機種名 | AG-DCD-R |
| 定格電力 | 単相100V 50/60Hz 550/830W |
| 最大風量(m³/min) | 200 |
| 本体寸法(mm) | W1120×D900×H1650 |
| 使用水量(L/min) | 15 |
| フレーム材質 | PP |
| 風量調整 | 3段式 |
| 風量調整 | 縦横ルーバー |
| 目安空調可能範囲 | 100~150m²/台 |
| 設置環境 | 屋内使用(屋外 特注対応可) |


工場の廃熱を「暖房」に変えるご相談はアクアイースターへ
本記事でご紹介した方法は、現場ごとに「温度帯・流量・連続性・水質・距離」が異なるため、最適解も変わります。
アクアイースターは、地下水エアコン×熱交換を中心に、コンプレッサー排気・ボイラブロー水・工場廃温水・乾燥機排気まで、既設設備を活かした省エネの設計・実装をワンストップで支援します。
「まずは可能性を知りたい」「概算を掴みたい」という段階でもお問い合わせください。




